現在教師として学校で働いているが、いずれは独立し、自分のスクールを持ちたいと考えている方は多いのではないかと思います。
しかし、転職はとても勇気がいることですし、ましてや独立となると、これまでと同じように誰かに教えてもらえるわけではありません。
そこで今回は、学校教員として10年努め、独立してスクールを立ち上げた筆者が、教員をしていたころと現在の働き方の違いについて書いていきたいと思います。
「教員」と「スクール経営者」との仕事内容の『違い』
スクールと言っても様々なジャンルがあります。そのジャンルやターゲットなどによって働き方が異なる場合もありますので、なるべくそれらのギャップがないように書いていきます。
一応筆者のジャンルとターゲットを説明しておきます。
- スクールジャンル:英語(語学)スクール
- 人数:マンツーマン
- ターゲット:英検®︎で大学入試を有利に運びたい高校生、TOEIC®︎でキャリアアップをしたいビジネスマン
- 時間:10時〜22時
共通の仕事内容(塾経営と学校教員)
学校では「生徒」と言いますが、塾やスクールでは「お客様」と言ったり「クライアント」などと呼んだりもします。しかしここでは使い分けてしまうとややこしくなるので、今回は全部まとめて「生徒」という表現を使わせていただきます。
生徒が使う教材の研究
学校教員は文部科学省が定めた学習指導要領により、検定教科書を用いて指導に当たらなければならないことが決まっています。さらに、教科書の進度もある程度決まっており、生徒の理解を優先して進めることができません。しかし、教科書はあくまでクラスの中で学ぶための教材であるため、最近では単語帳やワーク、文法書などの副教材を中心に教えている学校も増えてきました。ただ、1つのクラスの中では生徒のレベルに関係なく、全員が同じ教材を扱わなければなりません。
一方で個人経営塾では、教材を経営者が自由に決めることができます。生徒のレベルに合わせて教材を選ぶことができるため、基礎の抜け落ちを限りなく少なくすることができます。例えグループレッスンで全員が同じ教材を扱わなくてはいけなかったとしても、大抵はレベル別のコースが設けられているので、「教材と生徒の学習段階が合わない」ということは起こりにくくなります。
どんなことにおいても、段階に合わせたトレーニングが最も効率が良いことは言うまでもありません。塾やスクールでは生徒の学習段階に合わせた教材を選択できるため、成績を伸ばしやすいといえます。本当に成績を上げることにフォーカスしたいなら、一人一人にあった教材を選択できる塾に軍配が上がるでしょう。
自分の専門性を高める自己研鑽
この仕事は学校教員と個人塾で最もギャップが少ない業務と言えるかもしれません。
例えば筆者のような英語スクールと学校教員の例を見てみましょう。
どちらの仕事でも本質的な英語力の向上は、指導力UPにつながります。そのため英語を教える者として自分の英語力を高めることはどちらも共通しています。
違いを挙げるとしたら、専門性に対する重さです。
例えば、教員は必ず給料をもらえます。何か問題を起こさなければ首にもなりません。そのため、自分の専門性が伸びなかったとしても、自分が気にしなければ痛くも痒くもありません。
しかし、独立した人ならどうでしょう?
もし専門性を高められなければ集客や生徒の成績にも影響が出ます。そうなれば収入も減ってしまうことでしょう。
そのため、独立した人にとって専門性はなくてはならない武器なんです。
保護者との報連相(生徒が学生の場合)
学校でも塾でも、生徒が学生の場合は、その子の成長や気づきを保護者に連絡すくことは大事な業務です。ただ、塾の方は学校ほど連絡を取らない印象です。学校は生活指導もありますが、塾の場合は純粋な学力面だけしか見ていませんので、電話をする頻度は大幅に減りました。
個人塾経営者にしかない業務
ここからは教員が行わない業務を挙げていきます。
生徒、コースに合わせたオリジナル学習スケジュールの作成
上記でも述べたように、個人塾に教科書は存在しません。どのように教えるかも自由です。そのため、カリキュラムも自分で決めます。
グループレッスン形式ならコースを設け、そのコースに合わせたカリキュラムを組みます。
筆者のようなマンツーマンの個別レッスン形式なら、生徒一人一人に合わせた学習プランを作成します。
マーケティング
自分がターゲットとする生徒が何を望んでいるのか経営戦略を練ります。初めは市場を探りながらの経営が続きますので、経営が安定するまではずっと続けなければいけません。たとえ経営が安定していても、市場がどのように動くかわかりませんので、情勢を見ながら定期的にマーケットリサーチをする必要があります。
広告活動
高校や大学でもオープンスクールのイベントを設けて、次の新入生の獲得を目指します。ただ、塾とは大きく異なる部分があります。それは、広報の方法と目的です。
通常高校や大学は来てくれた生徒に対して説明をしたり、体験をさせます。場合によっては中学校や高校に出向き説明を行う場合もあります。広報活動といっても、戦略は特に目立った違いはなく、毎年同じような活動をします。
しかし、スクールや塾は生徒の人数も高校や大学とは比べ物になりませんので、まずは「知ってもらう」ことから始めなくてはいけません。そのため、近隣地域へのチラシ、SNS戦略、ウェブ広告などを使ってとにかく自分たちのスクールを選択肢に入れもらうことから始めます。さらに、広告の仕方でも効果が変わってきます。チラシならレイアウトによって見てくれる確率は大きく異なります。ウェブ広告にしても動画を作成したり、「ホームページに誘導するにはどうすれば良いか」など考えることはたくさんあります。現在ではSNS対策もしておかないと、潜在的顧客を逃してしまうことにつながります。筆者のスクールでも、生徒の半分がSNSをきっかけに入会しています。
学校の広報は、これまで行ってきたことをそのまま行えば良いですが、個人塾・スクールでは、市場の反応を見ながら試行錯誤を繰り返し、一から作らなければなりません。
経理・会計・資産管理
塾やスクールを運営していく上で、「全くお金がかからない」ことはほぼありません。例えば場所にしても、テナント代の家賃や住宅のローンなどの返済をしていかなくてはならない場合がほとんどです。さらに机や椅子、ホワイトボード、光熱費など備品がなければ成り立ちません。
学校では上記のものは事務員が管理をしてくれるので、教員が触れることは一歳ありませんが、スクールや塾を経営すると、事務員を雇わない限り、経理、会計、資産管理は自分自身で行わなければなりません。毎月「何を買ったのか」「歳入はどれくらいあったのか」「税金はどのくらいかかるのか」「自由に使えるお金はどのくらいなのか」自分で全て管理を行います。
これは経験がなければかなり面倒な仕事ですので、独立前から家計簿を常につける癖をつけておくと良いと思います。筆者はこの癖をつけておかなかったせいで現在大変苦労していますw。
ホームページ、ブログ、ネット戦略
ホームページは自分で作らなければなりません。ホームページは潜在的顧客が入会を検討する最も大事な要素の一つです。ほとんどの方がホームページで入会するかしないかを決定します。わかりやすく魅力的なホームページを作成するためには、ある程度の知識も必要ですし、写真や動画も沢山用意する必要があります。
ただ、ホームページは業者に委託してしまう人もいます。それでも良いとは思いますが、大体1つのホームページの作成には30万円ほどかかり、早くても1ヶ月ほどは待たなくてはいけません。さらに出来上がったものに誤りがないか細かくチェックする時間も考えると時間はそれ以上でしょう。そして、ホームページの作成を依頼すれば、毎月のランニングコストもかかります。大体相場は月1万円程度です。コストはかかりますが、どうしてもITに疎ければ、経費として依頼してしまうのも手だと思います。
筆者はIT関係が得意なわけではありませんでしたが、ホームページや自社ブログなど「一から作ってみたい」という気持ちがあったので、全て手作りにしました。何しろ初めてのことが多かったので、教員時代からコツコツ作り始め、なんだかんだ10ヶ月間ほどかかり、そのために本も5冊熟読しました。
ホームページを作成したとしても、見てもらえるわけではありません。まずは興味を持ってもらい、ホームページを見てもらえるようにする仕掛けが必要になります。そこで必要になるのがSNSとブログです。SNSではフォロワーが多ければ多いほど良いでしょう。筆者は開業する5年前にツイッターを始め、フォロワーも2000人以上を獲得しました。おかげでその後に立ち上げたインスタグラムのスクールアカウントも4ヶ月でフォロワーが1000人を超えることができました。もちろんフォロー返しを狙った方法は全く意味がないのでお勧めしません。開業前からできるだけ早めにコツコツと自分のSNSを育てておくと、開業してからとても役に立ちます。
学校教員にしかない業務
ここからは教員でしか行わなかった業務内容を書いていきます。現役の教員の方は普段やっていることだと思いますので、読み飛ばしてしまって結構です。学生の方はこれからのキャリアを考えるための参考にしてください。
会議
学校はとても会議が大好きな職種です。ただ、筆者がこれまで経験してきた会議は、資料と同じことを話す報告会と言った方が正しいものでした。会議の進行は基本的に年配の教員が行うため、これまでやってきたことと変わらない会議を行います。用意した資料を一緒に読み合わせることが会議であると思い込んでいる教員が多い印象でした。
さらに、中学校ですと、部活動が終わった後に行うことが多かったです。会議中に問題が発生した場合、監督責任が問われるため仕方がないことですが、部活動ですら勤務時間外に行うため、会議があった場合は帰宅時間がかなり遅くなります。
高校の場合は中学校ほど酷くはないですが、8割以上の会議は存在意義がなく、ほとんど自分で資料を読み進めることができれば必要ないものでした。
ただ、それを「無駄だ」と言ってしまうと、必要だと思っている同僚を傷つけてしまうことにもつながるため、職場での人間関係を大切にしたい場合はあまり口には出さない方が良いでしょう。
部活動
筆者は幼少期から続けている水泳部を持つことができたのでとても楽しい思いをさせてもらいました。自分が一番好きなスポーツを担当できるのはとてもラッキーなことです。
しかし、スポーツが得意でない方が運動部を持たされた場合は不運としか言いようがありません。さらにスポーツが得意でも、経験のない運動部を任される場合がほとんどです。自分の得意なスポーツができる可能性は1割にも満たないと思います。
部活動の顧問は、毎日授業の後に部活を行い、土日もどちらかは出なくてはいけません。もちろん部活動はボランティアですので、業務ではありませんが、出ないと管理職から注意を受けます。
現在では部活動を断ることもできますが、「みんないやいややってるのにあいつだけ」と周りから冷ややかな目で見られてしまうため、人間関係を重視するなら断らないことをお勧めします。
「自分はいずれ学校教員を辞めるから」と最低限の仕事しか行わないと、敵が増えてしまい、開業したときに思わぬ嫌がらせを受ける場合もあります。たとえ上手くやっていたと思っても、多少は妬みで嫌がらせをする人もいます。敵を作らないということも、将来を考えると大切なことです。
校務分掌
中学などは委員会などもありその運営を教員が行います。ただ、中学での校務分掌はあまり教員間での差はないように感じました。
高校では、新入生の獲得や大学進学率、就職率を重要視するため、ある程度専門的なグループ(校務分掌)が作られます。どの校務分掌に配属されるかは、管理職への印象で決まります。組織ですので、必ずしも希望の校務分掌に行けるわけではありません。ただ、少しでもその可能性を上げたいのなら、自分の専門性をアピールすることが良いと思います。
調査書、成績表、テスト作成・採点
正直、これらが最も嫌いな業務でした。
調査書とは大学に提出する内申書のようなものです。ここにはどんな生徒にも悪いことを書くことはできません。9割がでっち上げたものを書くことになるので、想像力が必要になります。大学の推薦試験などではこの調査書が合格を左右する場合もありますので、盛りに盛って内容を仕上げます。
成績表は4つの観点で総合的に評価をしなければいけません。しかし、基準を儲けると必ずその基準では「1」が出てしまいます。実は学校では「1」をつけてはいけないという暗黙の了解があります。例え不登校だったとしても「1」をつけることはできません。しかし、「2」をつけてしまうと、毎日学校に行っているのに「2」をつけられてしまった子から苦情を言われることもあります。そのため、この業務にはとても神経をすり減らします。
定期テストは1つ作り上げるのに6時間ほどかけていました。新人の頃は12時間くらいかかっていたと思います。さらに採点は毎回200人分を行うため、一回の採点で赤ペンを一本使い切ってしまいます。初めは腱鞘炎になるかと思いましたw
まとめ「意外に自己研鑽の時間は変わらない?」
いかがでしたでしょうか?
教員の方は、教員にしかない業務がなくなったらと思うととても楽に感じますよね。
しかし、塾を経営した場合、その業務と同じ量の違った業務が舞い込んできます。マーケティングや広告活動に関しては、生徒が常に沢山いるような人気塾になればあまり必要ありませんが、最初のうちは大部分を占めます。
筆者も独立してまだまもないですが、教員だった時と自己研鑽に使っている時間はあまり変わらないように感じます。ただ、組織でない分、自分で全て決めることができるので、モチベーションは高まりました。それは経営者としての醍醐味かもしれませんね。
■1日のスケジュールの違いについてはこちら👇
以上が筆者が感じた教員と塾経営者との仕事の違いです。独立しても自分の勉強時間が大幅に増えるわけではないので、実力はある程度付けてから独立するのがお勧めです。